映画『全身小説家』をついに見た!

原一男監督の『全身小説家』みましたよ。 なんか想像してたのと、まったく違う映画でした。 瀬戸内寂聴との不倫を描いた映画だと思ってました。 『全身小説家』というタイトルがしみじみと感じられます。すこししたら、また見ると思います。

昨日、原一男監督の『全身小説家』を見たけど、もしかしたらあたしは監督の最近の群像劇のほうが好きかもしれないと思った。『水俣曼荼羅』は最高だし、『れいわ一揆』もやっぱり最高。『ニッポン国VS泉南石綿村』は見ていてなかなか痛々しかったが…

『ゆきゆきて、神軍』とか『全身小説家』みたいな映画は、その主人公を魅力的だと思えなければ、映画の評価もそれに影響されちゃう。『ゆきゆきて、神軍』の場合は奥崎さんのメチャクチャな行動が、それでもちゃんとした動機があったから、安心して?見ていられた。

『全身小説家』の場合、主人公の作家の女性ファンたちが口々に作家の魅力を語るが、どうもそこに感情移入しにくいというのがある。一面、もてる男の処世術みたいな側面もあるのかもしれないけど、残念ながらあたしにはまったくピンとこなかったなあ。

彼の生い立ちが嘘をつかないと生きていけないみたいなことを誰かが言ってたけど。瀬戸内寂聴だったか。ぶっちゃけあたしが不勉強で、井上光晴がどれだけ偉大な作家か知らないことがすべての元凶?なのだろう。

あと残念ながら、あたしは瀬戸内寂聴があまり好きではない。なんとなく虚飾の人生という気がすごくしてる。その点では井上と似てるのかも。ちとググってみたらふたりは不倫関係にあったってどこを見ても書いてあるけど、井上の葬儀で瀬戸内は否定してた。アレも嘘なのかな。まあキレイな嘘、なんだろね。

わざわざ井上の葬儀のあいさつで、私は井上さんとはSEX抜きの関係で…なんて生々しい言葉を使ってまでウソをつくというのは、井上の言葉を借りれば、周りの人たちを幸せにするため、ってことになるのだろうか。とくに井上の奥さんを不幸にしないため? けどなんか、それってオレに言わせれば、単なる自分に対する言い訳に過ぎないんじゃないの? そんな気がしてならない。

あたしは業って言葉を簡単に使うのは好きじゃないけど、小説家って稀代のペテン師で、犯罪を犯さないギリギリのところで小説を書いて精神の安定を保ってるんじゃないか。そんな気がしてならない。あたしはというと、小説を書かなきゃいけないほど病んではいないんだけどな。笑

井上は全国に「文学伝習所」というのを作って、小説の書き方を“お弟子さん”たちにレクチャーしてたという。映画でも、そのシーンが繰り返し出てくる。それがどれもこれも、アタマっから酷評してるシーンばかりで。ずらずらと居並ぶ弟子たちのレベルがどれほどのモノかわからないのだが、大作家の先生が酷評ばかりして、弟子たちはまともに育つのだろうか、と少々心配になった。

ぶっちゃけ、井上が全国で展開したという文学伝習所の出身で、それなりの小説家って出たのだろうか。

皮肉なことに、映画では入院のシーンなんかにちらっとしか出てこない井上の長女が、立派な作家として存在してるみたいですね。その長女が井上のことを書いた小説が映画化され、その映画を原一男監督は酷評してるみたいですが。表現の世界はかくも厳しいモノなのですね。

いろいろ気になってググってみたら、原一男監督のこんなインタビュー記事を見つけた。

05 虚構は、理想。生きる希望。に『全身小説家』のことが書いてある。

映画のシーンをあらためて思い出してみて、思うんだけど、『水俣曼荼羅』と、九州が大きな舞台として描かれていることが共通してるなと。そして、こんなことを書くと怒られちゃうかもしれないけど、僕の中では九州って、どこか寂しい思い出があるんだよね。

生まれて初めて実家を離れ、小倉の団地に一人暮らしして、NHKの天気予報を見てたら、当たり前だけど九州の天気予報をやってて。ああ、遠くへ来てしまったんだなあ、としみじみ思ったこと。就職してから1か月、先輩の送別会に博多まで高速バスで行って、その帰りの八幡の夜景があまりにもきれいで物悲しかったこと。どこまでも、個人的な感想に過ぎませんが。

あともうひとつ、福岡で、結婚寸前まで行ってた女と、どこに住むか揉めて、彼女は交通の便がいい藤崎の駅前がいいと言い張り。僕は人を呼ぶのに、少しでも広いマンションがいいと主張して。

ああ、ダメだな、と思った。電話で、ごめんなさい、と伝えた。

考えてみたら、こんなことばかりしてるな。おれ。

物悲しいのは九州の地じゃなくて、おれそのものかもな。おれそのものかもな。なんかいい曲が浮かんできそう。おれそのものかもな。

きっとたぶん、そうなんだろう。

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