週刊新潮の「大虚報」に思う

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090506ddm014070172000c.html

尊敬するジャーナリスト佐野眞一さんの寄稿。

確信犯、という言葉がいいか悪いか分かんないけど、週刊新潮の上層部は、
おそらく、犯人だと言ってきた男が真犯人だとは思ってなかったんだと思う。
けど、最近、売り上げも落ちてるし、話題作りに一発どかんとやってみるか、
くらいのノリだったのだろう。

それは週刊新潮が過去にやってきたデマの数々を見れば、容易に想像がつく。

ある指導者をレイプ犯だと訴えた老婆がいた。もちろん、まったくのでっち上げで
ウソでもなんでも雑誌が売れればいい、という週刊新潮だからこそ、数十回に渡って
ハデに取り上げて、繰り返しデマを書き散らした。あろうことか、その老婆は裁判を
起こしたのだが、司法によって「訴権の濫用」とされた。つまりは、裁判で争う
価値がまったくないほど、それほど老婆の訴えは完璧なまでにでっち上げ、
デマゴーグであると。

たしか、僕の記憶に間違いがなければ、この騒ぎを扱った週刊新潮の記事に
1997年度の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」が贈られたようだが、
そのことについて、後に賞が剥奪されたとか、賞を贈った側からなんらかの
謝罪があったということは聞いていない。非常に残念なことではあるが。

こんな、週刊新潮のような、形容のしようのない雑誌が、ふつうに売られて
いることが、この日本の人権意識の低さを象徴していると、僕は思う。

————————
以下、全文引用。

寄稿:『週刊新潮』の「大虚報」に思う=ノンフィクション作家・佐野眞一
 ◇関係者処分にけじめ 第三者機関の設置を

 『週刊新潮』に10ページにわたって掲載された朝日新聞阪神支局襲撃事件の大虚報に対する謝罪記事を読んで、あまりにも誠意のない弁明の連続に言葉を失った。

 この記事には島村征憲氏なる情報提供者に“だまされた”という被害者意識があるだけで、島村氏と“共謀”して読者を“だました”という加害者意識はかけらもない。

 島村氏は、阪神支局を襲撃したとき、記者の一人が恐怖で失禁したとか、机の下に隠れようとしたその記者の尻をけ飛ばしたなどと証言している。

 そんな人間性のかけらもない人物を信用して襲撃事件を面白おかしく書きたてる記者の神経がそもそもどうかしている。

 そこには、白昼の言論テロに対する激しい怒りもなければ、恐怖にかられた記者に対する人間としての思いやりが決定的に欠けている。それだけでこの記事は、論外だった。

 日本の雑誌ジャーナリズム全体に回復不能の信用失墜をもたらした大虚報を4週も連続して書きながら、「報道機関が誤報から100%免れることは不可能」「週刊誌の使命は真偽がはっきりしない段階にある『事象』や『疑惑』にまで踏み込んで報道することにある」とは、何という思い上がった言いぐさか。

 新潮社はまず、虚報を載せた『週刊新潮』を回収し、新聞に謝罪広告を出すべきだった。

 それをせず、謝罪記事さえ売りものにするかのごとき姿勢は、完全に本末転倒であり、同社が根本から腐っていることを物語っている。

 新潮社は本当にこんな“謝罪記事”で、世間が納得して許してくれるとでも思っているのだろうか。読者をバカにするにもほどがある。

 “謝罪記事”が出た2日後、毎日新聞は、社内処分は一切行わず、第三者機関を設けて虚報記事の検証作業もしないことを報じた。その後、役員全員の減俸処分が発表されたが、これで納得する読者はいないだろう。これを知ったとき、あまりの反省のなさに腰の骨が砕けた。

 もし新潮社がこのままほおかむりして逃げられると思っているなら、手ひどいしっぺ返しを食らうことは必至である。

 これだけの大失態をやりながら、軽い処分で済むなら、『週刊新潮』は今後、企業や警察など官僚組織の不祥事に対して、「責任者を厳重に処分せよ」などと言えなくなるではないか。

 事実上の「処分なし」の決定をしたとき、新潮社は言論機関失格のらく印を自ら押したのである。

 社員のモラルダウンは計り知れない。さらにこれから、“謝罪記事”のウソも次々と明らかになってくるだろう。

 虚報記事を書いた若い記者は途中で島村証言に疑念を持ったが、編集長はそれを聞く耳を全く持たなかった。新潮社の上層部は、真犯人は島村氏に決まっている、もっとやれと火に油を注いだ……。

 私の耳に入ってくるのは、そんな情けない情報ばかりである。あまりにも遅きに失しているが、新潮社は処分問題のけじめをつけ、第三者機関の設置を急ぐべきである。

 それ以外に、失った信用を回復する手だてはない。(さの・しんいち=ノンフィクション作家)

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