1996年9月

●平成八年

・9月15日(日)

一太郎7を買って、今、付属のATOK10で書いてます。
ATOK9はもういらないから‥‥、と削除してしまったユーティリティを
もういっぺんインストールし直して、登録単語の一覧表を取り出し、新しい
ATOK10の辞書ファイルに貼り付けました。で、やっと今までのATOK
が戻ってきた感じ、かな。「自動登録単語」はすべて捨てました。新しい
ATOK10の変換効率を逆に下げる可能性もあると思ったから。

それにしても、新しい日本語入力ソフト(IMEと呼ぶことが多い)に
移るときというのは、なんだか緊張しますね。特に、古い辞書の登録単語を
新しい辞書にかぶせるときなんか。あ、この単語は、もう二度と使わない
だろうな‥‥、という「言葉」も、いくつか含まれていて。「言葉」といっても
ほとんどの場合は人の名前だったりするんだけど。ははは。(^^;

ま、でも、わざわざ消すこともないでしょ。いついつも目に触れるわけでも
ないんだし。大きな辞書ファイルの中のほんの数バイトを占めるだけなんだし。

もうひとつ、それにしても。辞書ファイルに鍵をかけることは出来ないんだろうか。
人に(登録単語を)見られたら、一発だよ。本棚を見ればその人がわかる、って
いう言い方をするけど、なんか似てるな。そういうわけでうちの辞書ファイルには
僕が自分で作ったプログラムでスクランブルをかけてます、なんて訳は、ないか。

よくわからない文章を書きました。

さっき出張先の、大分から帰ってきました。大分道、早く広げてほしいな。
事故を起こさなかったのが、奇跡だと思う。あの道に比べれば、福岡の都市高速が
60キロ制限なのが納得いかない。ホントに。

いいけど別に。


・9月19日(木)

今日、「スワロウテイル」を見ました。本当は、昨日も見ました。昨日は、見た
んだけど、途中でつまんなくなって映画館を出ました。今日、休みだったんだけど、
それがなんか気になっていて、もう一度見ることにしました。それで、昨日とは
違う映画館に出かけて行って、あらためて見ました。

今は、映画を見終わってから3時間くらいがたっています。最前列の真ん中の
席で映画を見終わって、ぼーっとしながら映画館を後にし、バスに乗って30分
くらいかけて家に着きました。バスの中ではずっと映画のことを考えていた。

昨日、僕が映画館を出たのは、ライブハウスが出来て、何とかレコードの人が
来て、グリコがレコード会社の面接を受ける、その後くらいです。なんだかよく
分からないんだけど、すごく見にくい映画だなぁ、と思ってました。画面が
ぐちゃぐちゃ変わるし。なんか映画の内容もあんまり私が好きなタイプの
ものではないようだし。それでも、映画を途中で抜け出すことは、かなり勇気の
いることです。ビデオをリモコンで止めるのとは訳が違いますから。それでも、
ホントに辛くなって、映画館を出たんです。たぶん、映画が始まる頃に続けて
二本飲んだ缶ビールがいけなかったのかも知れません。

昨日見た場面を過ぎて、時計を見たら、まだ1時間と少ししかたってなくて、
残りの時間を映画と向き合えるか若干の不安があったのですが、ちゃんと最後まで
見れました。すごく楽しめました。「楽しめた」というのが正確な表現だと思う。
「円都」にやってきてたくましく生きている「円盗」たち。「生きる」ってこと。
夢とかいうもの。お金。オンナにうつつを抜かす日本人の男たち。住んでいる人
たちに好かれることのない汚い大都市、円都(イェンタウン)。監督はいろんな
メッセージを伝えようとしたのだろう。

映画を見終わったとき、私を支配していたのは映画の圧倒的な迫力と、自分の
絶望的なまでの無力感です。監督の岩井俊二はまだ若いのにこんなに日本映画離れ
した映画を作ってしまう。それに比べて私は何をなしえているだろう。何も出来て
いないではないか。それでしばらく落ち込んでました。でもバスに乗って外の
景色を見たりバスに乗り込んでくる人たちを見てたら、違うことも思いました。
監督一人ではなく、大勢の人たちがあの映画を作ったのだ。大きな会社が商業的な
成功を目指して、資本を投入して。映画の中身だって確かに映像的に優れていたり、
ものすごくド派手だったりするけど、肝心のメッセージがぼやけてはいないか。
映画は楽しければ、それだけでいいのか? それは違うのではないか。彼が
一本の映画を通して表現したかったことを、何枚かの優れた写真によって、
表すことが出来ないということは決してないはずだ。そして、いちいち他人と
比較してメソメソするのはあまり建設的とは言えないのではないか。

そんなことを考えていたのだと思う。それで少しは今おちついている。


・9月20日(金)

宮本輝の『優駿』を読み始めた。今日、会社で(夜に)前半をほぼ読み終えた。
もう何度目だろう。そして、『優駿』を僕が読み返すのはどういった心境の
ときなのだろう。‥‥元気がほしいとき、かな。


・9月22日(日)

岩井俊二監督「undo」を借りてきて、見た。この間の「スワロウテイル」
のインパクトを自分の中で確認するため。

私、実はビデオを借りるのってすごく久々。それもちゃんとした映画の。

あんまりビデオを借りて見ないのは、最後まで見る自信がないから。
うちの汚いリビングで19インチのSONYのテレビに映し出される映像は
いかにも頼りなく。やっぱ映画は映画館で見るものだと思われ。

短い。45分くらいで終わってしまった。映像的にはすごく完成度が高く
文句のつけようがないのだろうが、映画の出来を云々するのは難しいな。
長ければよいという訳ではないのだが、勿論。

次は「打ち上げ花火‥‥」か。


・9月23日(月)

桜井亜美著『イノセント ワールド』、南木佳士著『医学生』を購入。
『イノセント ワールド』はずっとさがしてた本。書店の店頭で見つけたのは
初めて。感想は後日。『医学生』は、東京の私大の理工学部に進学したあとで
入院し、それをきっかけに医者を目指した高校時代の友達(女の子)を
思い出して、思わず買ってしまった。JASだったかの機内誌で
紹介されていたのをなぜか覚えていた。端正な文章に好感が持てた。
これも、感想は後日。

すごくきれいな夕焼けを見た。室見川の川辺で。そばで若いおねえさんが
コンパクトカメラで写真を撮ってた。本当にきれいだった。


・9月28日(土)

今日、会社に来る地下鉄の中で、すごく可愛い子を見かけた。

藤崎駅で電車に乗り込んだ瞬間、ドアの右のショートカットの
女の子の頭が目に入った。雰囲気、清潔そうな。
すぐそばに立ち、読んでた本を上からのぞきこむと、さくらももこ
さんの描いた絵。彼女のエッセイ『あのころ』か何かだろう。

プロのスカウト士(師?) として、きちんと見きわめる必要があるので、
反対側のドアの方に立ち、ちらちらと観察。駅を過ぎるごとに顔をあげて、
駅名を確認している様子。あんまり都心に来るのには慣れてないのかな。

短めの髪が可愛い。少し内気な目の表情。勉強は‥‥、うん、かしこそう。
白いプリントのTシャツを着てる。胸が結構、ある。うーん、童顔との
アンバランスが、とてもよい。単なるスケベおやじだ。ははは。

時計を見ると少しまだ出社のリミットまで間がある。早く家を出てきて
よかった。天神で降りてくれると、イイなぁ、‥‥赤坂でも、降りない。

天神。立ち上がった。よし、行くぞ。彼女は電車を降りると中央階段の
方へ。会社とは逆方向。うん、やむを得ない。追いかけよっ。

小さなリュックをしょってる。

西の改札を抜けて、地下道をさらに西へ。住友ビルの地下1Fへ入る。
うそぉ、女性洋品店ばっかりじゃん。こんなところで振り向かれたら、
尾行がバレバレ。

そのまま彼女、ビルを抜けて、地上への階段を。新天町。そして西通りの
方へ。よおし、声掛けるぞ。

「すいません‥‥」。けげんな表情で振り向く彼女。

「あの、わたし、写真を勉強している者ですが‥‥、えっと、
あなたの写真を撮らせてもらえませんか‥‥」

顔ひとつ分くらい、私より背が小さい。こんなに近くで、私を
じっと見上げている。目をまん丸にして。
鼻のまわりの小さなニキビがすごくかわいい。

「あの‥‥、ダメ‥‥」

あっさり、断られてしまった。

あああ。

しょーがないか。名刺を早く作るべきだったな。(「写真家・小倉雄一」)
それとも、もう一言、押せばよかったかな。一枚だけ、ね、ね、とか。

でもいいや。女の子に声掛けたこと自体、すんごい久しぶりだもん。
それに、あんなに可愛らしい子と話せただけでも、超・ラッキィ。

頑張ろ。明日、明けで帰るけど、必ず写真をモノにしてやるぞ。
ファイトッ!

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